質問するソニーの向井良子さん
質問するソニーの向井良子さん

国の未来を左右するのは女性だ、と今までなかった空気が流れ始めた日本とアメリカ。しかし、コミュニティー、企業、公共機関などで女性が活躍しやすい環境をつくっていくには女性の努力や心掛けだけではなく、男性にも理解を深めてもらわなくてはならない。初回のリポートで触れたように、とりわけ、歴史的・文化的背景からも他の先進諸国に比べて男女の格差が大きい日本。乗り越えなくてはならない壁も大きいようだ。【中西奈緒、写真も】

日本で働く女性の素直な声

南加日米協会が設立した「Women’s Leadership Counts Initiative」(WLCI、働く女性のリーダーシップ向上イニシアティブ)」の初回イベント。質疑応答の場面では特に、日本人女性からの質問が相次いだ。特にソニーから参加した向井良子さんの「米人女性によるパネルディスカッションに参加するたびに思うのが、みな『Be confident』と口を揃えて言い、実際とても堂々としていて自信があるように見える。どうしたら自信が持てるのか教えてもらいたい」という率直な質問に、パネリストからのアドバイスが相次いだ。

女性たちの質問に答えるパネリストたち
女性たちの質問に答えるパネリストたち

トヨタファイナンシャルサービス・グループVPのワダさんは、「『Fake it, make (become) it』、少しずつ周りの真似をしながら経験を積んでいけば、それがいつか自信になる」。B. Hill Enterprises LLC社長のヒルさんは「初めから自信がある人はいない。自分の強みは何かを知るところから始めれば自然と自信はついてくる」。KFWBのラジオショーの司会を務めるバークハイマーさんは「小さいステップを積み重ねていけば、失敗も小さいからチャレンジしやすい」。フレイジャーさんは「必ず自分をサポートしてくれる人がいるから、その人の強さをもらって、その人の思いを反映させて発言しながら強くなっていけばいい」と、それぞれが信じる言葉を会場の女性たちに送った。

質問をした向井さんは会合の後、記者に熱く語った。「今、ソニーはとても厳しい状況に置かれているが、将来を考えて研修に送り出してもらえてありがたい。会社の期待に応えたい。アメリカ人と日本人はもともと違う点が多いけれど学ぶことも多い。例えば、日本人と比べてアメリカ人は物事をストレートに言えるので問題をクリアにしやすいのではないか。私はいま20人のグループのリーダーを務めているが発言に自信が持てず、決断を下す時に意見がぶれそうになることがある。男性を意識し積極的に発言することに躊躇(ちゅうちょ)することもある。今日のアドバイスのように、まずは小さいミーティングから少しずつチームを引っ張っていく訓練をして自信をつけていきたい」。

意見を述べるソニーの中島みどりさん
意見を述べるソニーの中島みどりさん

同じくソニーから参加した安藤香織さんは「どうしても社内の男性に低く見られてしまう。チームワークを大切にして、周りの男性たちの理解を得られるように少しずつ努力したい」。また、中島みどりさんは「一人一人のmindset(考え方、物の見方)の改革が大切だと思う。まずは自分から行動をして自らが変わっていかないと結局女性を取り巻く会社の環境は変わらない。今は残念ながらロールモデルといえる女性がいない。後輩女性のためにも今自分ができることからやっていきたい」との思いを語ってくれた。

いま求められるリーダー、リーダーシップとは

元カリフォルニア第一勧業銀行で女性初の取締役兼副頭取を務め、現在、次世代リーダーを育てる非営利団体GOLDの代表としても活躍する建部博子さん
元カリフォルニア第一勧業銀行で女性初の取締役兼副頭取を務め、現在、次世代リーダーを育てる非営利団体GOLDの代表としても活躍する建部博子さん

今回のイベントの企画を担当した建部博子さんは、つぎのように総括する。

「まず初めに大切なのは、自分の中にある『無意識のバイアス』に気が付いて、自分の価値感や行動のタイプを理解すること。そのうえで、自分とは異なる価値感を持つ相手に対してモチベーションを高めるような効果的なコミュニケーションや行動を考える。リーダーの役割は、多様な価値感と考え方を持つメンバーを動かし、ゴールに向かって結果を出すこと。それをどのように実践するかは、チームを組む相手、国や会社の環境によって変わってくるので、信頼のおける関係をつくっておくことが大切。リーダーシップは、タイトル(役職)に関係なく、それぞれの立場で目標達成のために、自ら行動を起こし、チームを巻き込み、リードしていくこと。変化が激しいグローバル時代には、チームの一員としてもリーダーシップが求められる。最終的には、『人を動かす影響力』がリーダーシップの源泉になる」

「ガンジーの言葉『Be the change that you wish to see in the world』にあるように、世の中を変えるには、まず自分を変えること。社会や会社のカルチャーにつぶされる前に、自分ができることをポジティブに考えて、パッションをもって挑戦してほしい。そして、一人ではチャレンジかもしれないが、賛同する先輩や仲間たちと周囲を動かしていくエネルギーをもって前進してほしいと思う」

今後のイベントの課題

建部さんによると、日米の女性の共通課題トップ3は、「仕事と家庭の両立の難しさ」、「男性中心社会の中での働き方」、そして「ロールモデル・スポンサーがいない」ことだという。

こういった背景も踏まえると、今後のイベントの課題の一つは、どのように男性の参加者も集めていくかということではないか。それは、女性の活躍は女性だけが集まることでのみ推進されるものではなく、男性とともに考え話し合い、協力することも大切だからだ。残念ながら今回、男性参加者はほんの数人にとどまった。これからは男性スピーカーを積極的に招くなどして、男性のニーズも共有できるイベントも開催していくことが求められるだろう。また、いかにこれからもミッションを持ちつづけ、イベントづくりをしていくかも課題だ。一時のブームに乗ることは簡単でも、やはり続けていくことは容易ではない。

さあ、いま、起きつつある大きなムーブメントをどう生かしていくか。男女、そして国を問わず、それぞれの立場で日々どのように考え、行動し、柔軟に対応していくかがいま問われている。今後の日米協会、建部さんらの活動にも期待したい。(おわり)

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