「老いることは大変なことだね」この言葉を、最近何度か耳にした。年代もいろいろで、自身のこと、周りにいる人、身内のことなどを指していた。
日々の生活の積み重ねで、老いていく。その過程で高齢になる前の年齢でも、大変なことはあるが、事により人により大変と感じないまま過ぎる。何事も、うまく運んで病気をすることもなく、元気印で過ごしていると、老いて体力がなくなる、病気をした後の回復に時間がかかるなどの変化の受け入れが難しいかもしれない。弱っている人や老いていく様子を目にしたことがないと、常に元気でいられると思うのも無理はない。
平等に老いて、誰もが死を迎える。昔話にあったが、中国のある王様が不死の水を得た。ところが、老いて皺ができたり腰が曲がるなど醜い姿になっていく自分に早く死にたい! と嘆いたという。限りがあるから、一生懸命になるということもあるのではないか。限りはいつか分からないから、今を大事にするしかないと思う。
20代に聞いた更年期の症状。実感できなくても、大変なんだと思った。そのおかげで、どんな症状が出ても付き合うことができた。老いの症状も見てきた。本人の心身の状況だけでなく、家族や周りの人たちのことも。そして、自分が日々少しずつ変化するのを感じる度、あの人が言っていたことがでてきたなと思う。できないことが増えていくと、別の新しいことが見えてくる。そうやって、ちょっと楽しんでいる自分がいる。
91歳の父親の耳が今春、聞こえなくなったという。少し遠かったのが、全く聞こえなくなって筆談になったと実家から連絡があった。体は元気で、毎日畑に行って、聞こえなくても画面でわかるとテレビも見ているし、新聞・本も読んでいるという。状況を受け入れた生活をしているのだと、ちょっと安心した。
老いてケアが必要になったときの施設に、旧敬老施設がある。オーナーが変ると、スタッフが変わる施設が多い中で、同じスタッフ、ケア、プログラムを続けているのは、うれしい。その努力がコミュニティーに理解されていないような言動に出会うのはさびしい。
【大石克子】