なぜ神社の話になったかというと、発端はこんな会話だった。
 日本にいる息子が、観光で立ち寄った神社について「『日本三大稲荷の一つ』とうたっていたけれど、意外と地味だった」と漏らしたのである。そこから話は自然と「ところで稲荷って何だ?」へと飛んだ。
 まず頭に浮かぶのは「いなりずし」と、神社のキツネの像だ。AI先生に尋ねると、稲荷神社は京都の伏見稲荷大社を総本宮とし、五穀豊穣や商売繁盛の神として信仰されているという。また、いまさらながらだが神道の施設には「神宮」「大社」「宮」「神社」といった格式の違いがあることも知った。
 つまり息子は、サッカーに例えるなら4部リーグの試合に1部リーグ並みの派手さを期待していたのかもしれない。だが4部リーグには4部リーグの良さがある。サッカー好きの私だが、一番記憶に残る試合はW杯でも五輪でもなく、高校時代の息子の試合だ。決勝でPKを外して泣きじゃくっていたチームメートの男の子を思い出す。時間を巻き戻して「よくやったよ」と抱きしめてあげたくなる。
 そこから話はさらに飛ぶ。小学生だった息子が軽井沢・旧中山道のひなびた山の神社で、サッカー日本代表のシンボルである3本足の八咫烏(やたがらす)のキーホルダーを買ったことがある。なぜあんな山の中の小さな神社で八咫烏だったのか。神社にはそれぞれ役割があり、そこは勝利の神をまつり、八咫烏を神使とする熊野系の社だったのである。
 北中米3カ国開催のW杯が、いよいよ目前に迫ってきた。日本サッカー協会の八咫烏のエンブレムは、1932年に彫刻家の日名子実三がデザインしたものだという。誰もが知るあのエンブレムが戦前の作品でありながら、今なお古びることなく愛され続けていることに驚かされる。日名子は、五輪に芸術競技が存在していた時代の32年ロサンゼルス五輪に版画作品を出品した経歴もあるそうだが、何十年も愛され続けるデザインには、金メダル以上の価値があるように思う。
 八咫烏の羽に乗って思考が飛び回ったが、何はともあれ、そのご利益が日本代表に届きますように。もっとも喉から手が出る高額なチケットは、神頼みでは無理そうだ。(長井智子)

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