死を覚悟しながらも、自由を求め海を泳いでわたった少女が今、夢の五輪を泳ぎきった。
 小東京は二世週祭真っ盛り。しかしお祭りムードはロサンゼルスだけはない。ブラジルのリオデジャネイロでは今まさに夏季五輪が行われている。話題を集めるのはメダルの数。金銀銅合わせメダル数は圧倒的に米国が多いが、日本勢も快進撃を続けている。
 4年に一度の晴れ舞台。開会式では国を背負ってやってきた選手が自国の旗を誇り高く掲げ、笑顔で歓声に応える。
 その開会式で今年、ひときわ目を引く一行があった。今大会が初参加となる「難民選手団」だ。難民選手団は、中東やアフリカなど内戦や紛争が続く国々を逃れ難民となり、母国からは五輪に出場できない選手10人で構成されている。国旗がないため開会式では五輪のマークが描かれた小旗を振って登場した。
 同選手団のひとり、競泳女子100メートルバタフライ予選に出場したシリア出身のユスラ・マルディーニ選手(18歳)は昨年8月、内戦が激化し死と隣り合わせのシリアを離れ、トルコからギリシャへ向かうボートに乗った。しかし途中、ボートのエンジンが故障のため停止してしまう。彼女はとっさに海に飛び込み、ほか2人の難民とともに3時間以上にわたって泳いでボートを引っ張り19人の命を救った。
 「この場にいることができて本当に幸せ―」。今大会でメダル獲得はかなわなかったが、五輪の舞台に立てた喜びをかみしめた。
 そんな彼女には夢がある。それは難民に国境が開かれること、オリンピックでメダルをとること、そしてふるさとに平和が訪れること。「世界中の難民に『夢はかなえられる』と伝えたい。一生懸命練習に取り組めば、4年後の東京ではメダルが取れるかもしれない―」
 五輪の主役はメダルを獲得した選手たちばかりではない。苦境に陥っても決して希望を失わず、挑戦し続けた選手たちもまた主役なのだ。彼らの夢は決して朽ちることなく、いつか花咲く日が来るだろう。2020年の東京五輪、メダルを手にした難民選手団の勇姿が見られることに期待したい。【吉田純子】

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