「イチロー、今季はプレーせず」「会長付球団特別補佐に就任」という見出しが踊った。「とうとう引退か。お疲れさま」と言いたかったが、次があった。「来季に選手復帰の可能性」。何とも不可解な内容だった。
 今月初めのこの発表の前までは、3日後に控えた投打の二刀流で鳴らす大谷との初顔合わせに注目が集まっていた。だが日本の新旧スーパースター対決は実現せず、ファンはがっかり。当の本人2人が、一番残念だったかもしれない。
 歴代21位の3089安打、1シーズン最多262安打、10年連続ゴールドグラブ賞受賞…、球史に刻んだ功績は輝かしく、殿堂入りは間違いなし。現役にこだわるメジャー最年長野手は「50歳までプレーする」と公言し、代打や守備固めなど途中出場での少ない機会に備えて黙々と練習する姿は若い選手の模範となり、球団も敬意を表して現役のままで、フロント入りさせたのだろう。
 アメリカでは「安打マシーン」、日本では「安打職人」などと形容された。卓越したバットコントロールは匠の技に他ならぬ、走攻守で抜きん出て、狙い澄ました流し打ちに、好捕や「レーザービーム」と絶賛された捕殺などのファインプレーは芸術そのもの。プレーヤーというよりも、アーティストだった。
 「天才」と称されたが、日本では2軍からキャリアをスタートさせた。1軍に上がっても調子が上がらず、2軍落ちを経験した。天才が2軍に落ちるだろうか? 何万回、何十万回もバットを振ることで、技術を高めた本人もその言葉には否定的で、「努力の天才」には納得している。
 引退試合があってほしいと願いたい。メジャーデビュー戦で鮮やかなセンター前ヒットを放った思い出のシアトルで、フィナーレを見たかったが、それももうない。マリナーズの来春の開幕戦は、日本で行われる。「復帰の可能性」というのは、これに違いない。その1試合、もしかすると1打席のために、今オフシーズンも猛練習をするだろう。希代の「努力の天才」の花道が楽しみだ。【永田 潤】

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