韓国の政治家が好んで使う四字成語に「易地思之」がある。とくに文在寅大統領は外交上困った時によく使うらしい(産経ニュース「プレミアム」1月1日付)。韓国は当の昔に漢字を廃止してハングル万能になっていたと思っていたが、文氏世代には漢字はどっこい生きている。知人の中国人学者によれば、語源は中国唐代の歴史家・劉知幾の『史通』にある。「易地」とは土地や場所、立場を入れ替えるという意味。「思之」は「考える」。中国では「易地而処」ともいう。
 文氏は18年11月18日、ソウルで開かれた日韓協力委員会総会に寄せた祝辞で使った。韓国最高裁がいわゆる徴用工訴訟で日本企業に賠償を命じ、日本政府が反発していた時期だ。これは自分たちに言ったのではなく、「韓国の側に立って遇しなさい」と日本を諭したのだ。文氏は、18年1月、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が平昌五輪への参加を表明したのを受けて「『易地思之』しながら関係改善していこう」と述べた。今度は自分と相手方双方に向かって呼びかけた。
 日韓は漢字文化圏にある。漢字を捨てた(?)韓国の若年層はともかくとして、日中韓朝には共通の言語がある。文氏に限らず、日中の政治家もよく四字成語を使う。ところが、必ずしもその成語の本来の意味を理解して使うとは限らない。自分に都合のいいように使いわける。聞いている方は共通の言語だけに戸惑ってしまう。
 以前、豪外交官に「同じ言語を使う英国や米国との交渉は通訳なしでいいですね」と聞いたことがある。彼は「とんでもない。同じ言葉でも解釈が異なることが多々ある」と即座に否定した。前述の中国人学者は、日韓亀裂に触れて、「本来の意味を噛みしめれば、解決の糸口は見つかるはず」と宣(のたも)うた。とはいえ、誰かが意図的に焚きつけた反日機運と収まりそうにない日本人の嫌韓ムードがそうさせない。「劉知幾」先生に仲介役をお願いする以外に手はなさそうだ。【高濱賛】

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