経済を国際貿易によるところの大きいロサンゼルスにとって日本は長年のパートナーであり、また、日本はカリフォルニアへの最大の直接投資国でもある。カリフォルニアと日本は互いに何を学び合うことができるだろうか。
5月20日、南カリフォルニア日米協会とワールド・トレードセンター・ロサンゼルス(WTCLA)がウエビナーを開催し、在ロサンゼルス日本総領事の武藤顕氏とジェトロ・ロサンゼルスの佐伯徳彦氏が登壇した。
封じ込め成功の日本
極めて低い感染・死者数
武藤総領事は、当日における各国の人口1万人あたりの感染者数データを示した。 米国46・18人に対し、日本が1・3人と極めて低いことを紹介した。日本の感染者数は最大のスペイン49・34、イタリア37・56、英国37・45、カナダ21・24と比べても極めて低い。
また、人口10万人あたりの死亡率も日本は0・3人で、ニューヨーク市の208・8、スペイン51、イタリア45・3、米国全体15・3、ドイツ7・3と比べて極めて低い。死亡率の低さは韓国の0・5人と肩を並べている。
感染の封じ込めに成功していると思われる日本の事例を、武藤氏は三つのポイントで示した。
感染者数減少と同時に、感染者1人が何人に感染を拡大させるかを示す「実行再生産数」(リプロダクションナンバー)に着目し、この数字が1・0になり、成果が出てきたことを確認して、非常事態の解除に向かった。
第2のポイントには、クラスター(集団感染)対策の重要さを挙げた。感染爆発でロックダウンに陥ると社会と経済への打撃が大きすぎるため、地域の自治体と協力して早期に集団感染を特定・分析した。感染者の接触行動を追跡するコンタクト・トレーサー(接触追跡者)による人的対応と、デジタルの両面から努力を行ったことが、オーバーシューティングの抑制に功を奏した。
第3のポイントは治療薬について、日本側が加州の製薬会社のギリアド・サイエンシズ社の「レムデシビル」を認可した一方で、日本の富士フィルムの子会社が開発したインフル薬の「アビガン」についは共同臨床試験を求める世界45カ国に無償提供した。米国ではマサチューセッツの三つの病院でテストをしている。多国間の協調の例と言える。
日系企業と日系社会が協力
武藤氏、貢献に謝意表す
武藤氏は「米国進出の日系企業と日系社会が、ローカルコミュニティーと互いに助け合い、協力し合っていることを誇りに思う」と述べ、多くの例を紹介した。
ソニーエレクトロニクス(サンディエゴ)がロサンゼルスのホームレス・シェルターにチューナー付TVモニターを提供したり、北米トヨタ自動車(テキサス)が医療従事者向けにフェースシールドを製作し5000個を届けた。届け先にはロサンゼルスのケックメディスンUSCや、シダーズ・サイナイ・メディカルセンターが含まれている。
日立(ロサンゼルス)は本1100冊を自宅学習をする恵まれない子供たちのために寄付したほか、PPEも作っている。アイリスUSA(アリゾナ)は、仙台の姉妹都市であるリバーサイド市にフェースマスクを寄付した。
日系人のコミュニティーではLTSC、小東京コミュニティーカウンシルとKeiroが協力して高齢者にミールサービスを行っている。
武藤氏は、これらの日系企業の貢献について、4月22日にロサンゼルスのガーセッティ市長が、「日系と台湾系のコミュニティーから同市に対して贈られた寄付活動に感謝を述べた」ことを紹介し、これからも日系企業の当地への貢献を奨励するとした。武藤氏は、「物流の方法や寄付の届け先などについて協力するので、(気持ちがある企業は)私まで知らせてほしい」と結んだ。
加州で8万人雇用創出
JETRO調査
次に登壇したJETROロサンゼルスの佐伯徳彦氏はパワーポイントを使いながら、日系企業のになうカリフォルニアと米国経済への役割と、日系企業が現在置かれている状況を伝えた。
はじめに日系企業のアウトラインを紹介し、日本からの対米直接投資は4890億ドルで、米国が行う対日投資の1250億ドルに比べて4倍多いこと、投資先は全米各地に広がり、ワイオミング州を除くすべての州で投資額が海外企業の1〜3位の位置にいることを紹介した。特に製造業の果たす役割は大きく、雇用、輸出の両面で日本が外国企業の中でトップに立っている。カリフォルニアでは600億ドル8万人の雇用を作り出している。日系企業が米国とカリフォルニアの経済に貢献している様子を分かりやすく説明した。
3月末の調査では55%の企業が業績悪化を回答していたが、4月末の第3回調査では約2割近く多い74%が、業績悪化と回答した。それでも7割の会社が人員削減をせず、雇用を維持しているという。
数多くの日系企業は新型コロナ対策に有益な製品を製造している。人工呼吸器(旭化成、ホンダ、日本光電、トヨタ)、フェースシールド(キャノン、日立、ホンダ、日産、トヨタ)、マスク(デンソー、日立ホンダ、アイリス、みずほ、任天堂、MSIG、ソフトバンク、トヨタ、セブン&アイ ホールディングス)などである。また、多くの会社が寄付を行い、社会貢献を果たしている。
大気が大きく改善
コロナの変化の一つ
新型コロナウイルスで社会が受けた大きな変化の一つとして、佐伯氏が地球の大気改善を挙げたことは興味深い。佐伯氏が紹介した、3月と4月の大気を比較した衛星写真には、中国でも米国でも、明らかな空気の改善が写っていた。スモッグに由来するロサンゼルス上空の二酸化窒素は、完全に解消されてはいないが大きく改善されていた。
カリフォルニア州とロサンゼルスは、ゼロ・エミッションを奨励し、プログラムを実施している。まだ普及率は低いが、これからゼロ・エミッション車は伸びていく分野と期待できる。
Q&Aセッション
—オリンピックの延期について
武藤氏 オリンピック2021年7月の開催は、新型コロナのパンデミックとの戦いが終わった祝宴となることだろう。
—サステナビリティー技術について注目していることは
佐伯氏 15年のパリ協定から世界は大きく環境志向に変わった。特に欧州ではクリーンエネルギーとして水素発電が注目されている。日本や中国も同様で、中国では水素バスなども採用している。この分野は非常に早く変化している。
武藤氏 サステナビリティーに関して、カリフォルには大きなポテンシャルがある。ロサンゼルス水道電力局(LADWP)が操業する水素発電施設を、三菱日立パワーシステムズがユタ州に作ることになっている。水素混焼率30%で運転を開始し、40年までに水素100%を目指す。ちなみに、これは世界で日本しか追っていない技術である。
—日本からの投資額は第1位だが、この傾向は続くか
佐伯氏 大きな傾向は変わらず、加州への直接投資は続くと思うが、加州、あるいはロサンゼルスの賃金の高さについての議論は聞く。だが、ハイテクの会社にとっては加州。大きな動向の変化はないと思う。また、環境イノベーションに名高い加州の姿勢は魅力的で、その情報収集のためだけにも事務所を置くメリットがあると思うほど。「C40( Cities Climate Leadership Group)」の議長をガーセッティ市長が務めていることを始め、環境イノベーションの姿勢は魅力的で、価値は変わらない。
—大学教育は新型コロナで変わるか
武藤氏 オンライン授業なら外国からでも参加できる。米国の第一線の大学の授業を日本から受けられる。このようにポシティブな変化と捉えている。
佐伯氏 新型コロナはオンライン教育にインパクトを与えた。学生が必ずしも物理的にキャンパスにいなくても授業が受けられるので、世界的な大学競合を生むだろう。
—加州のコロナ対応についてどう思うか
佐伯氏 回答に難しい質問だが、ニューサム知事やガーセッティ市長の対応は正しい方向と思う。