ワールドシリーズを制し、ファンにあいさつするドジャースのロバーツ監督(写真=ジョン・スーフー)
 新型コロナウイルスのパンデミックにより、開幕延期、試合数削減や無観客試合などを強いられ、困難なシーズンとなった大リーグ。ドジャースのデーブ・ロバーツ監督は、要所での采配が光り30球団中で最多勝利を納めた。今季を振り返り、祝う必要のあるすべてのことを語った。健康、家族、ワイン、そして…、待ちに待ったワールドシリーズ優勝について。【マイキー・ヒラノ・カルロス、訳=長井智子】

外出制限令は副産物
家族との生活を楽しむ

 新型コロナ禍の現在、デーブ・ロバーツ氏もわれわれと同じく外出を控え、自宅で安全に過ごしているという。少なくとも今は、そんな生活を快適に楽しんでいるようだ。

ワールドシリーズで感染予防のマスクを着用し、ターナー三塁手(右)をとフィストバンプしベンチに迎えるロバーツ監督(写真=ジョン・スーフー)
 「裏庭でDIYに取り組んだりしているが、なかなかうまくいっているよ」
 サンディエゴ郡の海岸線に近い町に住むドジャースの監督は電話インタビューに応じて軽快に話した。
 「息子も大学から戻ってきているし、娘はまだ家にいるので、家族との時間を大いに楽しんでいる。言わば外出制限令による素晴らしい副産物。私はどこにも行けず、家族と過ごさなければならないから、ワールドシリーズの後でいろいろな方面に引っ張り出されることもなかった」
 感謝祭の週末はリラックスして過ごし、今年の幸運を数え挙げたという。もちろん、今年は魔法のシーズンと呼ばれた1988年以来の、フォールクラシックでの優勝を果たし、栄光を浴びた。
 「春季トレーニングキャンプがスタートした時、チームに『夢は旅だ』と話したが、これはコービー・ブライアントが最後のバスケットボールの試合で言った言葉なんだ」
 レーカーズのスターは、ドジャースがトレーニングを開始した2月下旬の1カ月ほど前に事故で亡くなったばかりだった。

就任5年目の夢の旅路
「ついにLAに優勝を持ち帰れた」

 ロバーツ氏は旅という言葉を引き合いに出しながら、続けた。
 「この旅を振り返ると、それは夢であり、多くの浮き沈みがあり、すべてを網羅していた。ついにチャンピオンシップを勝ち取りロサンゼルスに優勝を持ち帰れたことに、非常に満足している」

ドジャース監督の就任記者会見で、球団オーナーの1人のマジック・ジョンソン氏(左)からユニホームを着せてもらい笑顔のロバーツ氏(写真=マイケル・ヒラノ・カルロス)
 それは、2015年12月にロバーツ氏を見込んだドジャースが監督就任を発表し、ロバーツ監督がドジャースのユニフォームを着て、メディア、家族、ドン・ニューカムのような元ドジャースの重鎮、そしてタイトルに飢えたファンの前に立った時に生まれた信仰のようなものだった。就任式で監督のポジションを「夢の仕事」と呼んだロバーツ氏だったが、今、まさにその夢の旅路を振り返る。
 「あの日から今日まで5年ちょっとかかったが、ずっとこのためにやってきた」
 20年はパンデミックにより期間を短縮してレギュラーシーズンが行われた。シーズン中、そしてタイトルに向かうスリリングなポストシーズンの期間も含めて、ロバーツ監督は全チーム中で最高の記録でドジャースを5年間で3度目のワールドシリーズへ導いた。プレーオフは、移動中の新型コロナウイルス感染リスクを回避するために、中立地の「バブル」会場にチームを隔離して開催された。
2015年、監督に就任したデーブ・ロバーツ氏(左から2人目)。ドン・ニューカム氏(左端)と モーリー・ウィルス氏(右端)、元監督のトミ・ラソーダ氏のドジャースOBから祝福を受けた
 優勝決定への最終段階なのに球場のファンの声援がめっきり少ないという異常な状況だったにもかかわらず、ロバーツ氏は大リーグ機構が計画を立てたシーズン完了を可能にする功績に貢献し、ワールドシリーズでエキサイティングなゲーム展開を提供した。「このポストシーズンは、私がこれまでに体験したどのシーズンと比べても、引けを取っていない」とロバーツ氏は胸を張る。
 「レギュラーシーズン、ポストシーズンを通じて、今年、ファンは家族や子供たちと一緒に自宅のテレビで快適に試合を観戦した。アナウンサーは選手について深く掘り下げる必要があり、おかげでファンは選手について知識を増やし、より身近に感じるようになった。それはポジティブな効果だったと思う」
 野球界では「ドク(博士)」として知られ、ゲームの複雑さに対する知識と洞察力に富むロバーツ氏は、チームとファンが一緒に優勝を祝うことができる日を楽しみにしていると語った。
 「ワールドシリーズの優勝後に多くの期待が寄せられたにもかかわらず、パレードでファンとの最終的な集大成を達成できなかったことは確かに理想的ではないのだが、今年は理想通りにいかないのは仕方ない」

束の間の休息、英気を養う
がん克服、健康維持に尽くす

 次に野球が再開されるまで、数カ月の休みがある。監督として、選手やコーチに家族と一緒に家で過ごす時間を十分に確保して与えている。それは、ロバーツ氏自身もまた、今は自分と周囲の人々の世話をする時だと考えているからだ。

トミー・ラソーダ元監督と記念撮影するロバーツ・ファミリー(写真=マイケル・ヒラノ・カルロス)
免疫系がんの「ホジキンリンパ腫」を乗り越えた経験を持つロバーツ氏は、健康を維持するために最善を尽くしている。
 「今はよく食べ、よく眠り、散発的な運動をし、気分はいい。毎年健康診断も受けている」
 これまでもロバーツ氏はがんと戦う人々を支援してきた。ワールドシリーズの第3戦では、聖フランシス高校のフットボールコーチだった故ジム・ボンド氏を追悼した。
 また、ロバーツ氏と妹のメリッサさんは、近くに住む母の栄子さんが力を取り戻すのを手伝っている。栄子さんは2013年にパーキンソン病と診断され、患者の運動のための特別クラスに通っていたが、コロナウイルスの発生でクラスは中止されたままだ。
 母を気に掛け、定期的に様子を見るロバーツ氏は、「彼女はパーキンソン病に対処しているが、元気だ」と話す。 「近所を散歩したり、YouTubeを見ながら運動したりしている。それは、彼女にとって素晴らしいことだ」

ワイン好き高じレーベル
今は我慢、コロナ後に乾杯

 ロバーツ氏の人生におけるもう一つ素晴らしい娯楽は、想像できる限り球場から遠く離れている。
 ロバーツ氏と妻のトリシアさんは、カリフォルニア州セントラルコーストのセントルシア高原にあるワイナリーで生産される「レッド・ステッチ・ワイン」を他の2組のカップルと共同所有している。
 「選手、コーチ、そして今は監督。私は野球の仕事に夢中になってきた。だが選手だった2002年にショーン・グリーン(当時のドジャースのチームメイト)とナパバレーに行ったとき、別の自分を見つけたんだ」

「レッド・ステッチ・ワイン」を共同所有するロバーツ氏(写真提供=レッド・ステッチ・ワイン)
 ロバーツ氏は続ける。
 「これだ、と感じ、心ゆくまでワインと会話を楽しんだ。ワインをもっと学ぶことについては、そのプロセスに感謝するようにさえなった」
 選手を終えたとき、ナパの旅とワイン造りへの興味を思い出したロバーツ氏は、ジャイアンツのチームメイトだったリッチ・オーリリア氏、友人のジョンとノエルのミセック夫婦とともに、野球の球の縫い目を名前にしたワインレーベルを設立した。
 「レッドステッチ」は、2017年のシエラ・マール・シャルドネが100点満点中93点の品評を得たほか、13年間でいくつかの高評価を享受した。
 「ワインは、さまざまな会話や経験と食べ物のペアリングを促進する天地であり、私の人生のよいバランスになっていると思う」
 以前は高級ワインのことなど何も知らなかったと認めるロバーツ氏だが「ドック」というニックネームは伊達ではない。新しい知識の吸収はロバーツ氏に刻まれたDNAであるかのように得意技である。
 「世界各地のワインや、さまざまなワインのスタイルについて語り合うことには、旅、歴史の探求、人間、といった分野が包括されていて面白い。多くのスポーツ選手や芸能人が自分のワインブランドを始めて、この世界に足を踏み入れるのを見るのも興味深い」
ドジャースのジャパンナイトで始球式を務めた母栄子(右)のさんと抱き合うロバーツ監督(写真=マイケル・ヒラノ・カルロス)
 ロバーツ氏は新型コロナ後の世界を楽しみにしていると言う。これまで何カ月も世界中を包み込んできた執拗な不安がなくなったら、自分のビンテージを1、2本出してきて、家族と心置きなく食事を楽しみたい。
 「それと、家族を外食に連れて行き、レストランの店内で食事をし、ワイングラスを上げて、私たちが持っているすべてのことを祝うつもりだ」
 ロバーツ氏は、今は皆が我慢していると言う。
 「私はただ、その事態の中からポジティブなものを見つけようとしている。家族の絆は深まった。私のチームはバブルでの隔離のおかげでお互いにより親しくなれた」
 そして、「もちろん、また野球に戻ることを楽しみにしている」と付け加えた。
 レッド・ステッチ・ワイン、www.redstitchwine.com
サンディエゴのパーキンソン病協会の詳細とサポート、 
 parkinsonsassociation.org

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