緑白綬有功章が授与される松野淑人氏(写真左)と岩下寿盛氏(同右)

 公益社団法人「大日本農会」は令和3年度農事功績者をこのほど発表した。南加支会からは、サリナスでバラ切り花栽培業を経営する松野淑人(よしと)氏と、ロサンゼルスで庭園業・造園業を営む岩下寿盛氏にそれぞれ緑白綬有功章が授与された。伝達式は総領事公邸で開かれる予定。
 大日本農会は、明治14年に日本の農業の発展と農村の振興を目的として創設された団体で、現在は7代目総裁として秋篠宮文仁親王が就任している。明治27年から農事功績が顕著な者などに対し、紫白綬有功章、紅白綬有功章、緑白綬有功章の3種類の有功章が授与されている。北米では、カリフォルニア州に農業移住した人々との親善を図るため、昭和5年に大日本農会北米支会が設立され、昭和35年、同支会が南加支会と北加支会に分かれた。
 日本国内では各都道府県知事と同会支会の推薦、海外では南加支会長と北加支会長の推薦に基づき、多年にわたって農業の発展や日米親善などに貢献した人が受章している。本年度の農事功労者として受章したのは国内62人、海外2人となっている。
 松野さんは鹿児島県串木野市出身。「戦後移民の父」と言われる内田善一郎さんの移民運動に参加し、1956年渡米。カリフォルニア州メリスビルにある労働キャンプで農業に従事した。その後、マウンテンビューで独立してガーデナーを始めた。
 1960年代に内田さんのアイデアで、サリナスで難民移民らによる花栽培事業が始まったのをきっかけに73年、グリーンバレー・フローラル社を設立した。10エーカーの土地を購入し、カーネーション栽培を皮切りにハイブリッド・ティーローズやガーデンローズ、スプレーローズに加え、切り花の栽培を手掛けた。経営を軌道に乗せると、16エーカーまで耕地を広げ、順調に事業を拡大した。80年代はサリナスの花卉(かき)栽培は全盛期で、全米の約7割の生産を占めたが、南米コロンビア産の輸入に押され、サリナスの生産は落ち込んだ。経営の立て直しのために89年に長女ジャネットさんと夫カーチスさんに経営を任せた。
 娘夫婦はそれまで松野さんが行っていたグランド栽培をやめ、培養液を用いたハイドロポニック栽培を取り入れ、設備やマネジメントを一新した。経営は成功し、2カ所を合わせた11エーカーの農園に労働者35人を雇い、ガーデンローズ、スプレーローズを主力に58種の園芸作物を栽培している。ガーデンローズ栽培では、全米品評会で数々の最高賞を受賞し有数の生産者として認められ、2020年のグリーンハウスマガジンで全米栽培業者のトップ100に選ばれた。
 松野さんは一線から身を引いたもののオフィスワークに励み、娘夫婦のアドバイザーを務めている。夫人のとみこさんも現役で毎日朝から出荷作業を行い、サリナスの日系唯一の花栽培農家を支えている。
 地元の地域社会活動にも力を入れ、サリナス仏教会では夏祭りなどを運営している。また、サリナスー串木野市姉妹都市委員会へ寄付したり、サリナスバレー全米日系市民協会会員として活動し、日米親善に貢献している。
 岩下さんは、鹿児島県出身。1965年に渡米し、68年から庭園業・造園業を始め、78年から日本庭園業にも従事した。サンファナンドバレーで開業し、現在は「岩下ファミリーランドスケープ」を経営する。ビバリーヒルズ、ブレア、ブレントウッド、パシフィックパリセーズ、ウエストロサンゼルスに顧客を持つ。庭園業・造園業のみならず日本庭園のメンテナンスも行っている。
 地域社会における奉仕活動に力を注ぎ、日系社会を支えている。12、13年に南加県人会協議の会長を務め、日系社会の活動に年間約50回参加した。ゴルフ部長だった4年間は、会の運営資金捻出に奔走。非営利団体の運営取得により、会則変更にも携わった。
 南加庭園業連盟の会長を18年から務めており、諸団体と協力し活動を支え合い、日系社会の発展に寄与している。ベイシティー・ガーデナー組合でも顧問を務めている。21年からリバーサイド・仙台姉妹都市記念日本庭園と日米文化会館の日本庭園「清流園」、また、西羅府仏教会の日本庭園の美化活動にも毎年参加している。
 日米親善に貢献し、日本と関わりを持つ日系社会のさまざまな団体に所属して要職を務め、両国の交流を草の根レベルで支えている。現在顧問を務める南加鹿児島県人会では、各部の部長を歴任し会長を4期務めた。県人会創立100周年記念行事を支え、会長時に開催した創立110周年記念行事を成功に導くとともに、ボイルハイツのエバーグリーン墓地の県人会慰霊碑の建立に尽力した。
 昭和会、百働会、日系パイオニアセンター、米国書道研究会などで要職を歴任しており、奉仕、親睦、社会福祉、日本文化など多方面で活躍している。

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