先ごろ、北海道新幹線に乗る機会を得た。
新幹線が八戸、新青森と徐々に東北地方を北上し、ついに本州の向こう北海道まで延びたのは2016年春。北海道新幹線は、津軽海峡下に掘られた青函トンネルを通って、函館に隣接する北斗市の新函館北斗駅まで走っている。東京から、はやぶさ号でわずか4時間という旅だ。
今回の北海道新幹線の旅のハイライトは、青函トンネルだった。海底下100メートルを掘ったトンネルは海底部23キロ強あり、全長53・85キロ。27年の歳月と34人の殉職者の後、1988年に開通した。当初は海峡線の急行や特急列車が、新幹線開通後の今は新幹線のみが走っている。
トンネルは、橋と違って何の景色が見えるわけでもない。それでも海底トンネルはいつも、あの海峡の底を自分は今走っているのだと、特別な思いを抱かせる。
北九州に生まれ育った私には、九州と本州を隔てる関門海峡の下を潜る関門トンネルは身近な存在だ。かつては関門鉄道トンネルを通る夜行列車で上京し、75年に新幹線が博多まで延びてからは新幹線専用の新関門トンネルを通って帰省した。全長約19キロの新関門トンネルは、青函トンネル開通までは日本一長い鉄道トンネルでもあった。
20年ほど前に、ドーバー海峡下を列車で通ったことがある。英国とフランスの間のドーバー海峡の水深は津軽海峡と比べはるかに浅いが、最狭部は15キロ以上も広い。1994年に開通した英仏海峡トンネル(ドーバー海峡トンネルとも呼ばれる)は、全長50・45キロのうち海底部が37・9キロに及ぶ。万一の浸水事故に備え海底下を通る際は各車輌間の扉が自動的に閉じられ、そのアナウンスを聞いて緊張したことを思い出す。
北海道新幹線終着駅の新函館北斗駅から、美しい夜景や五稜郭で知られる函館へは、接続列車の函館ライナーで17分。降り立った函館の港は、吹き飛ばされそうなほどの強い冷たい風が吹いていた。
この北海道新幹線は現在、札幌までの延伸を目指して工事中。大部分が山や丘をトンネルで直進する計画とあって、これまた多くのトンネル工事が進行中で、開業予定は2030年だ。(楠瀬明子)