
小東京の日米文化会館(JACCC)で米国書道研究会(生田博子会長)の創立57周年記念書展が開催されている。23日には日系コミュニティーを代表する来賓を招きオープニングセレモニーを開き、テープカットを行い開幕を祝った。8月6日まで。

1965年に西海岸の7都市で書道教室を開くことから始まった米国書道研究会は日本の伝統文化である書の芸術を広く世界に広めることに貢献し、創立者の生田観周さん(故人)は88年に勲五等瑞宝章を、夫人で現会長の生田博子さんは2007年に旭日単光章を受賞した。また同会は08年の第23回産経国際書展で高円宮賞を受賞したほか、会員がそれぞれ書家として書と向かい合い、研さんを積んで作品を生み出してる。
57周年を記念する当展覧会では新旧会員の自選作合計70点ほどを見ることができる。1階のドイザキギャラリーでは大型作品をはじめ卓越した会員のさまざまな作品を、また、1階奥の茶室には新人会員の書が展示されている。作品にはそれぞれ英文の対訳が添えられている。
来賓として祝辞を述べたジャパンハウスの海部優子館長は「書道には腕の動き、エネルギーや、心の状況、姿勢などさまざまな要素があり、書はオンラインでは習うことのできない芸術の一つである」と述べ、パンデミック期間中の苦労をねぎらった上で、書道展の開催にいたったことを喜んだ。

また、JACCCのパトリシア・ワイアット館長は「書に人生をささげる方々の見事な作品は、見る者の心を深く打つ」と感動を述べた。
日本総領事館の武藤顕総領事は「若者や、日本語を母国語としない人々にも、書道が知られるようになった」と述べ、書道の指導を通じて日本の芸術を広める生田会長のリーダーシップをたたえた。
続いて、生田会長、同会副理事長のラモス逸子さん、副理事でシアトル支部長の加柴律子さんの3人が出席者の目の前で大きな用紙に筆をふるって書き上げる揮毫(きごう)を行った。最初に加柴さんが「安寧」の願いを2文字に、次にラモスさんが「一望光の大河が平原をゆく」という雄大な光景を文字に託した。生田会長は初めの1枚に道元禅師の句「静かなる心の中にすむ月は波も砕けて光とぞなる」をしたため、次の1枚には「蓮華の花」と揮毫した。94歳という高齢とは思えない安定した姿勢から、筆を下ろして一気に書き上げたこの句は、先ごろ無念の死を遂げた安倍晋三元総理にささげるために選ばれたという。冥福への祈りを託された書に、会場に静かな感動が流れた。

今回の展示について、生田会長は今を世代交代の橋渡しの時期とし「初心者・上級者の作品を展示している」と説明。「日本に行かない限りなかなか見ることができない書を見てもらい、展示を通じて皆に頑張れという言葉を贈りたい」と抱負を述べた。またこれまでの長年について「ご縁があって良い先生に指導を仰ぐことができ、良い流れの中にいられたことが主人と二人三脚でやってこられた理由」と話す。
ゲストとして会場に列席した表千家同門会米国南加支部の岡添宗幸さんは「生田会長は書道のみならず、表千家でも南加支部の発足当時から活躍していらっしゃる重鎮だ」と話し、書展開幕の祝意に添えて「後輩として先生のようにありたいといつも願っている」と述べた。また箏演奏家の粟谷陽子さんは「生田会長とはかつて当地に日本芸術集団という組織があった頃からのご縁だ」と言い、「いつも励まされている。いつまでもお元気で続けてほしい」と願った。生田会長自身が後進にとっては特別の良い師であることは、当地で日本の伝統文化に携わる後輩各氏が生田会長を慕う姿からも十分にうかがえた。

書をあまり知らない者にとって、作品を愛でるポイントは何だろうか。最後に生田会長に、書の見方について尋ねてみた。文字を読んでその内容に共感する、文字が読めなくても形が何かを訴える、あるいは書き手の心境をおもんばかるなど、書のスタイルがいろいろあるように楽しみ方もさまざまで良い。だが、そのエッセンスは「良い書は心に響く」という言葉に集約されるようだ。
「書き手に『このようにありたい』という希望があっても、では『どのように表現すれば伝わるのか』。そのためには字も選ぶし、色も選ぶが、その根本にあるものは古典、歴史に残る書家の書いたものを勉強して、字の『格調』や『格式』を捉えることができるようになることです」

このように述べる生田会長は「それをもってして筆を下ろした時に一気に書き上げられた作品は、たとえ書かれた文字が読めなくても見る人に伝わり、言葉の壁はなくなる」と書の神髄を説いた。
書道と落書きの違いはこの「格調」の勉強にある。もちろん、その習得が簡単な道でないことは容易に想像できる。そして、それは鑑賞者にとっても、「格調」を理解することが日本の伝統芸術を一歩深く理解する鍵となることが示唆されているように思える。 (長井智子、写真も)

