近所に超が付くほど人気のラーメン店がある。さぞかしおいしいのだろうが、並ぶのがおっくうで食べたことがない。見慣れた日々の行列は、その長さをさらに、さらに、と延ばしている。
 私の生活圏はたいして広くない。それでも街中に随分と人が増えたと分かる。とりわけ、ヨガのレッスンに通っている銀座かいわいにはかつてのようなにぎわいが戻ってきている。旗を振る観光ガイドに連れられて歩く人たちや、ハイブランドの買い物袋をたくさん持っている人たち。その姿に懐かしさすらも覚える。近所のカフェから聞こえてくる言語も多様になった。
 街や人々が活気づくのは人の心や社会生活、日本の経済にとっていいこと。きっと多くの人たちにとってはそうだろう。日本に観光に来ることを心待ちにしていた人も多いと聞くし、影を落としていた観光業界やインバウンドビジネスには光が戻ってきている兆しが見える。
 でも、私の世の中を見る目はこの3年ほどで確実に変わってきている。こんなことを言ったら多くの人を敵に回してしまうかもしれないが、コロナ禍の静かで人の少なかった生活を恋しく思うようになっているのだ。生活者や地元の人の目線ってこんな感じなのだろうか。
 誤解されないように言っておくと、私は筋金入りのリベラルだ。留学時代にできた友達は世界中にいて今でもSNSでつながっている。友達が日本に遊びに来たときは積極的に会って飲んで盛り上がる。外国人観光客が日本にたくさん来ることを反対しているわけでは決してない。でも、静かな日常生活の環境を守りたい。
 こんな感じで毎日モヤモヤして過ごしているのだ。改めて驚くのは、日本がこんなにも外国人観光客に依存した国だということ。今それを目の当たりにしている。小さい経済規模で静かに少ない人口で過ごしていくことは難しいのだろうか。経済競争もそこそこにして。
 前出のラーメン店。正直なところ一度は食べてみたい。でも、外国人観光客も加わって日に日に延びていく行列を見ると、極上であろうその一杯を口にする機会はさらにさらに遠ざかっているように思う。(中西奈緒)

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