
コロナ禍により2020年からオンラインで開催されていた海外日系人大会(公益財団法人海外日系人協会主催、外務省など後援)が16日から3日間、東京のJICA市ヶ谷ビルで、4年ぶりに対面で催された。17カ国から日系人やその関係者約200人が参加し、今年のテーマ「飛躍するニッケイ社会へ—期待される新世代のイニシアティブ」の下、各国における日系社会の現状や問題点、活動を紹介したり、二重国籍に関する日本政府への要望を伝えたりして、活発に意見を交わした。
大会の開会に合わせ秋篠宮ご夫妻が壇上に立ち、「日系社会のさらなる飛躍や発展を期待する」とあいさつした。
同日夕刻、外務大臣主催の歓迎レセプションでは、上川陽子外務大臣が自らの座右の銘である「鵬程万里」(ほうていばんり、高い理想を掲げて遠くを見つめる)を紹介し、幾多の苦難を乗り越え、各国の発展に多大な貢献をすることで信頼と尊敬を集めてきた日系人や日系社会に、改めて敬意を表した。
17日は、「共生社会実現に向けての努力と貢献」というテーマでパネルディスカッションが行われ、ロサンゼルスから入江健二医師と池田啓子博士がパネリストとして登壇した。両氏は非営利団体である「高齢者を守る会」の主要メンバーとしてKeiroによる旧敬老看護ホームの売却に反対し、日系社会に欠かせない新たな看護ホームの建設を目指し活動を続けている。

入江医師は冒頭で、「今回は高齢者を守る会を代表して参加した。ロサンゼルス地域には日本人や日系人約10万人が住んでいると言われている」と述べ、続けて米国には多くの人種のコミュニティーが存在しているが、アジア系へのヘイトクライムが多発していることを伝えた。「日系看護施設は多人種社会の中で発生する問題から日系の高齢者を守るためにも有効だと考えており、ロサンゼルスでの日本文化を象徴する非営利の看護施設の建設を目指している」と強調した。
池田さんは、「1960年代から米国への移住や長期滞在は増え続けており、日本国籍のまま米国で滞在している人は約6万人と推定され、さまざまなコミュニティーの間で葛藤を抱えている」と述べた。また「米国での介護費用の増加は若い世代にも大きな問題を与え、日系人の14%が認知ケア施設を切実に求めている」という調査結果を紹介した。「次世代の日系人の方々のために、施設が必要だ」と力説した。
会場からは、「なぜ(高齢者施設を売却した)Keiroへ協力を求めたのか」という質問があった。入江医師は、「最初は施設売却の反対を目標にした団体だったが、売却後は新しい日系のナーシングホームを建設するという方針に転換した。そのためには大きな資金が必要で、売却による膨大な資金を持ってシニアへのサポート活動をする非営利の団体であるKeiroに協力を求めていくのが私たちの正しい方針だと考えて、現在の理事長とも話し合いを続けている」と、説明した。
フランスから参加したピレー千代美さん(在仏北海道人会)は、「現在フランス在住の日本人は約3万6千人、永住者は約1万2500人を数え、継承としての日本語教育の問題がある」と紹介した。また二重国籍について「親の介護のために日本国籍を失ったり、国籍の自動喪失をせざるを得ないという『冷たい法律』となっている」と指摘した。「だが、国籍法では二重国籍を禁止する条項はなく、マスコミも国籍に関する法律を間違って理解し報道しているケースがある。多くの国々では与えられている二重国籍が、日本では与えられないという合理性のない法律を変えるために、長年嘆願を続けている」と語った。
最終日の18日には、「日系人の主張」をテーマにブラジル、フィリピン、ペルー、ハワイに住む日系人が登壇した。在日日系ブラジル人の子どもたちは、日本での生活や将来に関して日本語で発表した。
ロサンゼルスから参加した國風流詩吟吟舞会総師範の荒木淳一さんは、米国に移民した当時の苦労や、庭師の仕事、現在はカラオケや詩吟にいそしむ生活を紹介した。
最後に第63回の日系人大会の大会宣言が発表された。宣言された五つの項目は①情報通信技術(ICT)に通じる若い日系世代の知識やアイデアを生かす②日系をニッケイというカタカナで表記することで共生と共創と連携を深める③教育重視と相互扶助の観点から、高齢者に対する対応と問題解決に取り組む④日本生まれや日本育ちの2世、3世の生活や仕事、人材の育成に取り組む⑤日系4世へのビザの要件緩和をし、国籍喪失規定や国籍選択制度の撤廃を求める。
会場にはかつてロサンゼルスに在住し、日本に帰国した参加者も多く見られた。海外日系人協会の評議委員を6年務めている若尾龍彦さんや、元在ロサンゼルス日本総領事の兒玉和夫さん(現海外プレスセンター理事長)、ロサンゼルスで日系人のドキュメンタリー3部作を製作した映画監督のすずきじゅんいちさんの姿が見られた。
海外日系人大会は今回で63回になるが、初期の頃は海外在住の日系人をもてなすことを目的にしていたという。だが、現在は海外や日本に住む日系人やその子孫たちが、社会生活を向上させるために解決すべき問題点を話し合い、解決を進めていくという方針に変わってきている。参加者も、移民して苦労を経験した世代から、次の世代や若い世代になりつつある。