「あっ!」
 朝食の準備をしようと台所に入ろうとした瞬間、サンちゃんの鼻緒が切れた。長年連れ添った、と言っては大げさかもしれないが、4年半もの間、毎日重い僕の体を支え、時にゴキブリ退治の時にはよろいになってくれたビーチサンダル。見た目、何てことのない青色の部屋履きだが、サンちゃんは、大切な相棒だった。この悲劇は5秒間ほどだったが、僕を悲しみのどん底に突き落とした。
 出会いは2019年10月。仕事で行ったシカゴのエアビーに滞在中、部屋履きが欲しくなり、近くのTARGETで見つけたのがサンちゃんだった。何が突出していたかというと、色でもなく、デザインでもない。それは破格の1ドルという値段だった。こんな掘り出し物は滅多にお目にかかれない。さんさんと輝くサンちゃんを手に入れた僕はニューヨークに帰ってからも生涯の伴侶のように彼と生活を共にした。
 出会いあれば別れもある。衝撃的な出会いだったが、しょせん1ドル、僕は無情にもサンちゃんをゴミ箱にあっさりと葬った。苦労したのは、その後だ。1ドルという安価で買ったので、サンダルにそれ以上のお金を払う気にはなれない。一時的にAPAホテルでゲットした使い捨てのスリッパを数日間履きながら、近所の99セントショップを見て回った。しかし、見つかるのは、6・99ドル、8・98ドルと、5ドルを下回る商品など全く見つからない。ところが新たな出会いは突然やってきた。近所の店で、値札がない中国製の薄底の竹皮草履を見つけたのだ。そして僕は中国人の店主に恐る恐る値段を尋ねる。
 「これいくら?」
 不意打ちを受けたオーナーは、2、3秒考えたが、自信を持って「2ドル50セントだ」と答えてきた。この物価高のニューヨークで、これより安いビーサンは他では見つけられない! そう確信した僕はレジへ一目散に駆け寄り、耳をそろえて現金を支払った。隠しきれない笑いを抑えながら店を出た僕は、新しい相棒に「ビーちゃん」というニックネームを命名した。1ドルで4年半持ったサンちゃん。ビーちゃんなら今後10年は一緒にいてくれるだろう。(河野 洋)

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