2部のパネルトークで話す(左上から時計回りに)バームさん、シモンズさん、モデレータースティールさん、山口さん、 茅野さん
 南加日米協会は5日、米国で活躍する女性ビジネスリーダーらを招いてウェビナー「改善マインドセットを目覚めさせよう」を開催した。働く女性の指導力向上と能力開発を主眼とする「WLCI(Women’s Leadership Counts Initiative)」の年次イベントだが、新型コロナ禍の今年はオンラインでの開催となった。

 基調講演を行った茅野みつるさんは男性社会の日本で、総合商社で初めての女性の執行役員となり話題となった。国際的に活躍する女性リーダーであり、伊藤忠インターナショナルの社長兼最高経営責任者(CEO)としてニューヨークで勤務している。茅野さんは、多くの日本企業が年度末を迎える3月末を目前に社会がコロナウイルスでロックダウンとなり、業績と社員の安全という二つの難題を抱えた当時を、「個々が家から働く状況下で、どうしたら効率を下げずに強いチームでいられるかを考えねばならなかった」と振り返った。

基調講演をした茅野みつるさん
 大変だったが、一方には良かった面もあり、「それまでどうしてもできなかった改善が、パンデミックによって一気に進んだ部分がある」。以前はオフィスで恒常的に書類を印刷していたが、今はプリントアウトをしなくても仕事ができることが分かった。社内のデジタル化が進み、大量に紙を消費する無駄がなくなった。「これは、パンデミックによりマインドセットが変わったことで改善した例」と述べた。
 3月に始まった自宅勤務が長期化し、会社のトップに立つ茅野さんには、5月以降、社員の身体と精神の健康をどのように管理するかという課題があった。今後については、家から働くのか、出勤するのか、どうなるかは不透明だが、「一人一人にとって、最も理にかなった働き方をする、ということが次の改善の概念となるだろう」と話した。
 映画芸術科学アカデミー最高執行責任者(COO)のクリスティン・シモンズさんはディズニーで働いた若い時代から現在の管理職までキャリアを深めてきた中で、「常に自分を再発明することを考えてきた」と話した。仕事上の提案が否定されたときに、その怒りをどのようにのみ込み、いかに優雅な態度に変えるか、いかに楽観的な精神に変えるか。仕事の局面で常に自分を向上させていくという心構えを話した。「どんな本を読むか、どういう人から話を聞くかということも大事。個人、ビジネス、世界のそれぞれについて、毎日、再発明を考えている」と話すシモンズさんには、楚々として穏やかなオーラの中に芯の強さが垣間見えた。
 実業、エンターテインメントの次は法律の世界から、法律事務所モルガンルイスのパートナーでサンフランシスコ在住の弁護士、山口ナンシーさんが話した。管理職の割合で男性優位・白人優位、さらに競争の著しく激しい業界にあって、パートナーになるまでの道筋も、一際の厳しさであったようだ。おいしそうなケーキの写真を示し、出されたケーキにわれ先に飛びついて一人占めをしたら日本人なら眉をしかめられるが、「米国では自己中心的であることや競争力があることはモチベーションにつながるので良しとされる」と説明し、「このような日米の違いには自分も驚いた」と話した。
 日本発祥のビジネス哲学として「KAIZEN」とは、従業員を巻き込んで常に変化を続けていく手法だと米国のビジネス界で知られている。山口さんは、「だが、パンデミックで、人々は互いに依存していると気がついた」「これからは個々のつながりが大事」と言う。それに合うKAIZENの概念は、競争よりも協調、疎外よりも抱合。仕事、日常生活や人間関係にKAIZENの精神を持ち込むことで向上することができるとし、「みんながおいしいケーキを分け合えるようになる。協調性や公平性という女性の特性は、指導者の役割を果たす資質だ」と話しを結んだ。
 人それぞれ、仕事環境も心の道もさまざまだが、改善の心構えを日々積み重ねていくことが、ニューノーマルという変化の時代に対応し、成果に大きく貢献できるリーダーの資質につながると講演は伝えていた。 【長井智子】

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