小東京アートコンプレックスが入っていた全焼したビルの前に立つケント・ヨシムラさん【写真=マリオ・レイエス】
 6月8日未明に発生した火災は、築100年のビルを炎で覆い尽くし、事件から1週間経った今も、焼け跡は焦げ臭いにおいと灰に包まれている。ビルの2階には、地元のアーティストが作品を制作するスタジオ「小東京アートコンプレックス(LTAC)」があり、何人ものアーティストが被害に遭った。「スタジオは、多くのアーティストが集う手頃な制作の場であり、カルチャーが生まれる場でもあった。それが火事で全焼してしまいこれからどうなっていくのか分からない」と話すのはケント・ヨシムラさん。名古屋で生まれロサンゼルスで育ったヨシムラさんもLTACのアーティストの1人である。

 LTACは、20人以上のアーティストによる作品制作の拠点として、また壁画のライブペインティングやキューレーション、そして「アートウォーク」イベントへの参加など、多彩な活動を行うクリエイティブなスペースとして知られていた。
 フランセス・ハシモト・プラザやテラサキ武道館を見下ろすビルに壁画を制作したヨシムラさんは、オリジナル作品の多くを自宅に保管していたものの、この火災で2年分の作品やスケッチブック、アーティスト仲間の作品などを失ったという。
 ヨシムラさんの壁画制作をサポートしたポール・ジュノさんも深刻な被害を受けた1人。ステンドグラスのように多彩なカラーを使い大胆にキャンバスに描く手法で数々の作品を生み出してきた彼も、この火災で7年分の作品を含む100点以上を失った。

テラサキ武道館の壁画を制作したケント・ヨシムラさん(左)とポール・ジュノさん(2020年8月、写真=ケン・ホンさん提供)
 火災が起きてからまもなく、寄付ポータルサイト「GoFundMe」での募金活動がスタートした。また、27日にダーデン・アンド・レイ・ギャラリーで、被害に遭ったアーティストたちのサポートを目的とした展示販売会が予定されている。
 ジュノさんは現在、展示販売会に向けて絵画を制作しているが、「通常1枚の絵を完成させるために何十枚も描かなければならない。スタジオの中にスペースがなかったので、廊下も絵で埋め尽くされていた。絵を失うということは、私にとって愛する人が死んでしまったようで、本当につらい。もはや再現できない絵や、写真を撮っておかなかった絵もある。スタジオには私の未来が詰まっていた」と悲痛な胸の内を語った。
 ロサンゼルス市消防局は、ビル内で発生した火災の原因を発表していないが、2件のテナントが喫煙具を販売していたことや、現場付近の地面にブタンガスの容器の破片が散乱していたと報告している。
 今回の事件は、近年、3街とその周辺で起こった喫煙具ショップに関連する火災としては3件目となる。昨年5月のボイド・ストリートでの火災では12人の消防士が負傷し、内1人は手を失った。「周辺で大きな火災があったというのに、いまだに何も対策が取られていない」と話すヨシムラさん。今回の火災では負傷者が出なかったものの、個々の被害は大きく、将来への不安は尽きない。ヨシムラさんはこれまでわずか225ドルの賃貸料でLTACに自分の場所を確保してきた。「LTACは、開発によって賃貸料が高くなってしまったダウンタウンで、アーティストたちに『ホーム』と呼べる貴重な場所を提供していた。ビルの解体や撤去後は、富裕層向けの業者が開発を始めるかもしれない」と危惧している。
 甚大な被害を与えた火災だが、ビルの東側に描かれたジャッキー・ロビンソンを抱くコービー・ブライアントの壁画(ジェシー・フレゴゾ作)はかろうじて被害を免れたという。「このビルがなくなってしまうと、ここを制作活動の拠点にしていたアーティストが他に移らざるを得なくなる。ポール(ジュノさん)のようにノース・ハリウッドに住んでいる人にとっては、LTACは単なる制作空間ではなく、小東京という街やコミュニティーとつながる場所でもあった。今、それが完全に失われてしまっている状態だ」と心情を語った。
 LTACのGoFundMeサイト—
 www.gofundme.com/f/ltac-fire-fund
 支援の展示販売会は27日(日)午後1〜6時、場所はロサンゼルスの「Durden and Ray(1206 Maple Ave. #832)」。【グエン・ムラナカ、訳=砂岡泉】

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