「あなたの行動が誰かの命を助ける」(YASL=Your Action Save Lives)は、コロナ禍でとるべき行動を啓発する目的でカリフォルニア州が20人のアーティストと手を組んで実施したプロジェクト。州内で活躍するアーティストがそれぞれ多様で目を引くユニークな作品を提供した。その中の1人に日本人アーティスト、三木優子(みきまさこ)さんがいる。三木さんは、ベイエリアで最大の中華街があるオークランドで、インタラクティブ(双方向的)なパブリックアートを展開している。三木さんは、配車サービス大手ウーバー本社のスカルプチャーパークに設置した一つ20フィート以上のブロンズ彫刻から、エコバッグに印刷したかかわいい動物のイラストまで、さまざまな形で作品を作り出す。在米25年、バークレー在住の三木さんにインタビューした。【長井智子】

 —YASLではどんなことを?
6枚のポスターの原画をデザインしました。チャイナタウンの商工会議所とコラボレートして、原画からショーウインドウに貼るビニールのデカル(シール)を60枚ほど印刷しました。3〜4フィートの大型ポスターです。作品はチャイナタウンのいろいろな場所に貼られ、そのポスター探しをしてもらうというのが今回のプロジェクトの大切な要素でした。決まったところに作品を見に行くのではなく、パブリックでシェアできるというのが前提。現在、私自身のアーティストとしての個人的なプロジェクトでもパブリックアートを制作しています。

北カリフォルニアを拠点に活動する現代アーティスト三木優子さん

 「みんなが見ることができるという考えはパンデミックの中では特に重要だと思う」と話す三木さん。宝探しをして街を探検してほしい。そのために地図も作った。ポスターにはQRコードも付いている。ウェブに行けば、どの店に作品があるかが分かるそうだ。コロナ禍で大きな集まりができないので、小さなグループでできて、気持ちがわくわくするアクティビティーを考えたという。
自分で探すという行為は大切。「ここに行ったら何でもあるよ」というよりも、自分で検索したり店に足を運んだりして探検する。その、「自分でする」というメンタリティー自体が教育ツールだと思うのです。そこで、大きなミューラル(壁画)ではなく、あえて小さなものをたくさん作りました。「探しに行く」ためにです。
 —各アーティストがそれぞれに違う内容で作品を作っていますが、三木さんのプロジェクトでは、アイデアはどのように始まったのですか?
私はドローイングだけでなくインスタレーション、パブリックアート、スカルプチャーも作りますが、今回は3Dだと場所をとるので平面ですることにし、いろいろアイデアを煮詰めていくうちに、ポスターといっても巨大でなく、目線と同じ高さで信号を待っているときにさっと目に入るとか、子供の目にも見えるような距離感のメッセージ…、それならひとつの場所よりもたくさんあったほうがいいよね…と考えを進めていきました。
 新型コロナウイルスの感染者数と死亡者数が特に顕著なカリフォルニアでは、言葉やさまざまハンディーがあることで大きな被害を被った「ぜい弱なコミュニティー」に訴え掛けることが重要だといわれる。これはニューサム知事がYASLに求めた課題でもあった。「アジア人に対しては、同じアジア人からのメッセージを聞くことが、より響くと思う」と話す三木さんのポスターから「マスクをしてね」と語り掛けるのは、ネコやトラなど、かわいい動物たちだ。

長い尾が特徴のスカンクを描いた作品は、エコバックにもプリントされた

アメリカはコラボで生き抜く場
—チャイナウイルスと呼ばれたことも含めてアジア人のコミュニティーは最近ひどく傷つけられていますが、アジア人同士の連帯を感じますか?

ヘイトクライムはずっとあったことだと思いますが昨年はBLMから始まり、特にサンフランシスコではアジア系コミュニティーに対するヘイトの被害が多くありました。そこでは私たちはアジア人として一くくりにされています。でも、米国で強く思うこととして私は、「ここはコラボレーションでないと生きていいけない場所だ」と感じます。
みんなでコラボレートとするべきだと思います。最初は自分と同じ言葉や同じ文化のバックグラウンドを持っているとつながりやすい。次は、アジア人同士のつながりです。日本人、中国人、フィリピン人…、それぞれ違うようでも、絶対にどこかにシェアできるカルチャーがあります。
チャイナタウンはシンボリックなほどにいろいろな人がいて、多様性があります。今回、オークランドの商工会議所とコラボしたことからして、皆が一緒にしないと意味がないプロジェクトでした。私一人がポスターを貼っても意味がないんです。多くの店から「ポスターを貼りたい」と手が挙がりコラボが広がりました。ポスターを探すためにいつもと違う道を通って新しいお店を発見した人がそこで買い物をすれば、街の活性にもつながります。

神道アニミズムをモチーフに
—作品にはどんなキャラクターが登場していますか?

今回6種類製作したポスターでは、カラー作品にネコとキツネ、白黒ではヘビとトラ、ハリネズミとスカンクを描きました。私の作品はアイデンティティーに対する追求がテーマです。そして、モチーフに神道(しんとう)のフォークロアに出てくるような動物を使っています。神道にあるアニミズムをベースに自分の作品の中で新しい神話を作っていきたいと思っています。

ハリネズミ(作品上)とトラ(同下)が「マスクをしてね」と呼び掛ける作品

ここでいう神話とは昔話というニュアンスではなく、現代社会に必要なストーリー。私たちの価値観を反映するストーリーです。どういうものに私たちが共感していくのか。それは私たちの価値観や考え方によりますよね。みんなの命が大切。物にもスピリットが宿っている。アニミズムの考え方を現代社会にもっと話していいのではないでしょうか。
私の作る作品に九十九神(つくもがみ。付喪神とも)を題材にしたシリーズがあります。九十九神とは一言でいえば捨てられた道具の妖怪で、鉄のカマやお皿などが捨てられたことで怒っているという昔のお伽話です。道具にも誰かが作ったプロセス、誰かに使われたというプロセスがあるのです。このような人間中心の目線ではないアニミズムは今の時代にもう少し話していくべきストーリーではないかと思います。物が神聖であるなら、人も神聖であるのです。そこから意味が見出せるかどうかは人間次第。人間が一番パワーを持っているのだからその行動を見直すべきです。
神道の話は一つのモチーフですが、現代社会の中で私はそのモチーフを使って何をやりたいのかを考えています。そして、どのようにしたら作品を見るオーディエンスと連携していけるかを考えています。

新しい神話に入れ替えたい
概念として私が尊重したいのは、「みんな神聖なんだよ」ということです。昨年から始まっているBLM、Racial Injusticeやヘイトクライムへの運動、これらは明らかに、「誰かの命を奪う」という行動に対してのもの、「(他の存在を)軽んじる」行動に対してです。フロイドさんを殺してしまった警官は、心のどこかで(その行動を)「してもいい」と信じていた。では、そのストーリーはどこから来ていたのでしょうか。それは奴隷、植民地…といった長い歴史に基づいて出来上がった概念ではないでしょうか。歴史に根付いた、まちがったストーリー。私は、それこそが現代社会のまちがった神話だと思っていて、それを入れ替えていかねばならないと思っています。 ではアーティストとしてどうやってその神話を入れ替えていくのか。それが課題です。
人種の話などをしていると

作品は、ビルの壁面にも投影された人々の目を楽しませた

歴史を振り返ることになります。日米で生活してみて、日系人収容キャンプに連れていかれた人々、私が尊敬するイサムノグチさんもボランティアで入ったといいますが、そういう話を読み聞きして、日本で生まれ育った自分たちとはまったく異なる経験があることに驚きました。私は父が戦後生まれ。祖父には防空壕に入った記憶があるという世代です。日本人と日系人のアイデンティティーは複雑だと知りました。
ナイーブかもしれないし、難しいことですが、現代社会に響く新しい神話を作っていかねばいけないと思います。歴史と過去を知っていくことは、責任だとも思います。記者にレポーターとして責任があるように、私がアーティストの責任としてこれからの社会を良くしていきたいと思うなら、過去のことに向きあっていかねばならないと思います。そのプロセスには見たくないことも多いかもしれない。でも、過去(歴史)、現在(私たちができること)、未来、とつなげるならば、現実を受け止めねばならない。その上で、コミュニケーションができたり、コンテキストをつくれたりすることが、私にとってはアートなんです。

マスクを着用するネコとキツネが描かれた作品

私はアーティストなので、アーティストとして社会のツールになることをしていかねばならないと考えます。ではアメリカ人あるいはアメリカにいる移民として何をし何に反対するべきか。何がアイデンティティーなのか? 未来のアクションを決めるときに、自分が何者かを知ることは絶対に必要です。
私が答えを持っているわけではなく、私の葛藤をシェアすることで気持ちが伝わり、そのシェアできた瞬間が大切だと思っています。経験をシェアしていくことで互いを信用し、その瞬間に近くなります。知らない人からちょっと知った人に、次は、知っている人から友達になれるもしれない。そうなって初めて、「コラボ」ができるのです。
コラボでは、自分のパートと相手のパートをお互いに信頼すればこそ、合わせて大きなことができるようになります。こちらがこうだから、あちらはこうなるだろうと分かります。まったく知らない人や信頼関係がない人とはコラボはできません。また、コラボができないと大きな社会で何かを実現することはできないのです。

アニミズムの精神を宿したかわいらしい動物たちの姿を借りて、「それって本当はこうじゃない?」と、新しい目線を提供する。お伽話のようでもそこに込められたアーティストのメッセージは真摯だ。
YASLの作品原画は現在、オークランド美術館1階の無料観覧エリアに展示されている。来月にはニューヨークでも展示が始まる予定。中国の彫刻公園におけるプロジェクトも進行中だ。また、サンフランシスコで配車サービス大手ウーバー本社のスカルプチャーパークに納めた9体のブロンズ彫刻は、パブリックアートなのでいつでも見ることができる。オークランド美術館の詳しい情報は電話510・318・8400またはウェブサイト—
https://museumca.org

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