構成吟を声高らかに披露し、大きな拍手を浴びる9人の吟士
朗々と吟じる清吟会のメンバー

 吟道榧本流清吟入雲会(仁田尾南清会長)はこのほど、トーレンスの都ハイブリッドホテルで2022年度の秋季大会を開催した。詩吟の他、長唄「みのり会」(主宰・杵屋勝美典)と津軽三味線「佐々木光露会」(主宰・佐々木光露)が参加し、日本伝統文化の3団体が合同で発表を行った。

 秋季大会は日本総領事館が後援。聖愛幼稚園の園児13人による「聖愛ダンスチーム」と、11歳と10歳の少女ダンスデュオ「ニコ&ココ」も、元気でアップビートなダンスを披露した。さらに、今年の大会では主旨の一つに「ウクライナ子ども支援募金」を掲げ、発起人でトーレンス在住の諸橋義弘さんらを中心に募金の呼びかけを行った。ウクライナ支援の慈善NPO団体「ノバ・ウクライナ」から招かれたナタリア・ルウシさんがスピーチを行い、さらに歌手でもあるルウシさんが平和を願う歌やウクライナの民謡を披露する一幕もあった。

昇格を果たし、免状を披露する6吟士

 吟詠は入門3年未満の無号の吟士が吟じる第1部からスタートし、雲号の第2部、清号の第3部、構成吟の第4部へと続いた。現在、詩吟会員は37人。日本から2人の会員も駆けつけて参加した。構成吟「青雲の志」は演出にフルートと電子ピアノの演奏を起用し、一般・師範代・准師範・師範から計9人が登壇して朗々と吟じた。
 長唄の演目は「越後獅子」と「五郎時致(ときむね)」の2曲で、みのり会の会員は着物姿で、三味線、唄、太鼓(たいこ)、大鼓(おおつづみ)と小鼓(こつづみ)による演奏を行い、江戸時代の華やかな芸能の世界を再現した。

佐々木光露会のメンバーによる息の合った津軽三味線の演奏

 同じ三味線でも太く力強い音が特徴の津軽三味線を操る佐々木光露会は、津軽三味線独特の合奏曲「六段」など7曲を演奏した。よく知られた民謡の「ソーラン節」や「津軽甚句」「津軽あいや節」、互いのソロ演奏を競う「曲弾き全国大会スタイル」や、黒田節をサンバ風にアレンジした「黒田サンバ」の他、「和洋じょんがら」では洋楽器の音に絡めて奏でるなど、異なるスタイルの津軽三味線を披露した。

「越後獅子」と「五郎時致」を披露した長唄の「みのり会」

 観客数は予想を超える150人近くで、日本伝統文化に携わる3団体の日頃の練習の成果を堪能した。
 ウクライナ支援募金では、発起人の諸橋さんがウクライナ領事館を通じて招いたルウシさんがスピーチした。ルウシさんは1987年に原発事故のあったチュルノブイリはウクライナにあり(当時はソ連邦ウクライナ共和国)、今、戦火の中で注視されているザポリジエ原発はルウシさんの出生地から非常に近い場所にあると話しつつ、戦争や原発災害に遭った日本とウクライナの共通点を挙げた。「心を開いて寄付をしてくださる皆さんの申し出に心より感謝する」と述べたルウシさんは、日本人が戦争や福島の原発事故などに遭いながらも一つになり、互いを思いやる文化の中で復興したことをたたえ、さらに自分が学生時代に「日本の戦争記念碑である子ども像に心を打たれた」ことを話した。広島の「原爆の子の像」と「折り鶴」に込められた平和への願いは「世界が互いを認め合い、平和を求めて一つになるシンボルだ」と述べ、マイケル・ジャクソンの曲「ヒール・ザ・ワールド」の一節を歌唱し、大きな拍手を受けた。

謝辞を述べるナタリア・ルウシさん

 清吟入雲会は昨年に誕生した新組織だが、副会長の前田龍清さんは「今大会を無事に乗り切ることができて、会員一同の団結が一層強まったことを実感している」と述べている。2012年からコロナ前の19までの8年間、詩吟・長唄・津軽三味線の合同で行ってきた大会の再出発について、「違う分野の伝統芸能に触れる格好の機会でもあるし、また、コロナ禍で練習や発表がズームに置き換えられたりしたが、人前の緊張の中で発表してこそ上達する」と、意義を強調した。「秋季大会ではこれまでも東北や淡路、熊本で起きた日本の自然災害の義援金を集める活動を行なってきた。今年はウクライナの戦争のただ中にある子どもたちを支援することになった」と話す前田さんは、イラクに駐在し中東を舞台に仕事をした経験があり、紛争地の様子を親身に感じている。「子どものダンスもウクライナの子どもを励ますために踊ってくれた。前向きに行動をした結果、予想を超える多くの方が集まってくれた」と大会の成功を喜んだ。

ウクライナの子どもたちにエールを送った聖愛幼稚園のダンスチーム

 詩吟に込められた武士の大志や思いの力強さ、長唄に込められた町人文化や情の世界、津軽の三味線に込められた民の声。芸能や芸術に昇華された世界はいかにも純粋である。また、子どもたちの無邪気な姿には会場の誰もが目を細めたのと同時に、ウクライナの子どもの状況を考えたに違いない。自分の芸を探求し演じること、芸術を鑑賞し楽しめること。そのような平和に感謝する心の表れのように、わずか数時間の秋季大会で来場者が寄せた募金は2千ドルを超え、事前に寄せられた募金との合計は4198ドル(開催当日)に達した。

「ウクライナ子ども支援募金」への協力を呼びかける諸橋義弘さん

 ノバ・ウクライナの行う慈善プログラムの中に、四肢を失った子どもたちのための基金があり、今回、集まった募金はサンフランシスコに本部があるノバ・ウクライナを通じて全額、寄付される。「子どもたちが少しでも暖かく、食事に不自由せず過ごせるように、多少でも助けになればと願ってのこと」と話す諸橋さんは「結果は期待以上だった」と善意に感謝を表す。「ノバ・ウクライナのサイト(https://novaukraine.org/en/homepage/)からオンラインでも募金ができるので、心ある人はぜひ、協力してほしい」と語っている。(長井智子、写真も)

吟道榧本流清吟入雲会が主催した秋季大会の参加者。前列左端2人目から募金発起人の諸橋義弘さん、仁田尾南清会長、前田龍清副会長

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