元気いっぱいの主人公おなり。教室内は日本の学校そのもの ©2022 Netflix, Inc.

 短編アニメ「ダム・キーパー」(2014年)がアカデミー賞候補となり、期待のアニメーション作家として注目を浴びた堤大介監督の最新作は、日本の民話を題材にしたネットフリックスのミニシリーズ「ONI〜神々山のおなり(英題 Oni : Thunder God’s Tale)」。登場するのは、カッパや天狗(てんぐ)、なまはげ、雷神、風神など、日本人にとってなじみのあるキャラクターたちだ。
 主人公のおなりは、クラスメートと一緒に、天狗先生の指導の下、自分の「クシ」を目覚めさせるトレーニングを積む。クシとは、神語(しんご)に出てくる「奇魂(くしみたま)」(神秘な力を宿す魂)に宿る神秘な力のこと。映画の冒頭で、おなりは「We are the Kami, the great spirits of the natural world」というせりふを言うが、これはまさに日本人がいにしえから脈々と伝えてきた世界観だ。日本人は、自然そのものや自然現象に神秘な力を認め、それらを神々として敬い、感謝を伝えてきた。そして、人間もまた、神々の力を分け持って生まれ、死後、神に戻ると考えてきた。その世界観をこの一言で表す力量に脱帽した。また、ネットフリックスは、多言語の音声・字幕の選択ができる。日本語字幕では、「われはカミなり、母なる大地を司る偉大なる魂」と表現され、第2話で明かされる「なりどん」の正体のヒントが隠されているのも脱帽だった。

英語版では、ジョージ・タケイが天狗先生の声でコメディの才能を開花させている © 2022 Netflix, Inc.

 おなり以外の神々山の住人は綿のようなフカフカしたテクスチャーで、全体的に丸みを帯びており、ものすごくキュート。また、動きやリアクションもザ・日本という感じだ。森の描写や音楽など、宮崎駿夫のアニメを見ているような感じがした。
 自然の映像美もさることながら音楽の持つ感情表現は衝撃的だった。サウンドトラックが映像を彩り、感情をけん引する力を持ち、1人のキャラクターとしての役割を担っているのだ。和楽器を巧みに入れ込んで和の雰囲気を出しながらも洋楽器と見事に融合させているのも素晴らしい。
 英語版では、天狗先生の声をジョージ・タケイが担当している。タケイの声は、低音でシリアスな雰囲気を持っているが、本作ではシリアスさを逆手に取ったコミカルな場面もあり、タケイの新境地を堪能できる。
 メインキャストの声優陣は、タケイをはじめ、日系人をそろえた。役名だけでなく、「弁当」「わっしょい」など、英語版でも日本語が出てくる本作にとって、それらのせりふが正しい日本語で発音されるのはとてもうれしい。起用のうれしさはそれだけではない。メキシコ系や韓国系などは、映画賞で注目されると、母国の同輩や後輩と手をつないで上を目指すが、なぜか日本人はそれをしないと嘆いていたところでの堤監督のこのチョイス。二重の喜びとなった。
 本シリーズの後半に日本の妖怪や民話に詳しい外国人カルビンが登場する。個人的なことだが筆者は、神話のふるさと島根で育ち、「アメリカ出世稲荷神社」の宮司としても活動している関係から、日本人よりも欧米人の方が日本の神話や伝統文化に詳しい場面にたびたび遭遇してきたので、現実を見事に投影した描写にも喜んだ。本作をきっかけに母国の伝統文化に日本人自身も目を向けてほしい。
 作品を通して、よそ者、自分とは違う者への恐怖や、自らが生み出す恐怖が描かれる。恐怖を攻撃の対象とするのか、理解して共存の道を探るかは自分次第だ。外国で暮らす者にとって、それは何度も経験してきたことではないだろうか。
 ONI〜神々山のおなり おなりは、穏和な父親「なりどん」と神々山に暮らすおてんばな女の子。間もなくやってくる鬼月に備え、天狗先生の指導の下、自分のクシを目覚めさせるのに必死になるが、なかなかうまくいかない。そんな中、なりどんの正体が分かり興奮するのもつかの間、自分の素性について衝撃の事実を知るのだった。(はせがわいずみ)

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