
「ふたつよいこと、さてないものよ」。私はこのご隠居さんのような言い回しが好きで、普段から身近に置いている言葉です。こんなせりふで世間を眺める落ち着いたババ様に、「さてなりたいものよ」と思っているのであります。そんな中で、先日思わず「ふたつよいこと、ありますよ」とおどけたくなることがありました。
5月のある日のことでした。朝の庭いじりをしながらふと見ると敷石すれすれの地面から「風船かずら」が一つ、芽吹いているではありませんか。
「なんとまあ!」
見つけた瞬間、それはそれは。天にも昇るうれしさでした。細長い双葉と独特の切れ込みのある本葉、まさしく風船かずらです。
だからって、何も天に昇らなくてもいいんじゃないの、とお思いでしょうが、実は大げさな表現をお許しいただく理由が私なりにあったのです。
というのも、4月初め、今年はワイルドフラワーの種をまいてみようと、雑草を引き抜き、土を掘り起こし、えっちらおっちらやっていたわけです。ついでに風船かずらもポット植えしようと、種はビニール袋に入れてシャベルの隣に置いておきました。
私は風船かずらの涼し気な風情が好きで、毎年種を採って次の年に植えています。作業が一段落し、では植えましょうとビニール袋を探すと、ない、ない、置いたはずのビニール袋がないのです。
しまった。風にさらわれてしまったか。
袋の口を閉じないでふわっとしていたから、風をはらんで転がっていったのでしょう。芝生の上をずいぶん遠くまで飛んで、案の定、袋の中は空っぽでした。
「ウソでしょ〜」
風船かずらの種は直径5ミリほどで、白いハートの模様があり、わりに目立つのですが、芝生の上で種を探すのは困難です。たとえ芝生の隙間から芽が出たとしても、週1回の芝刈りで摘み取られてしまうに違いありません。がっかりもいいとこです。いえいえ風は悪くないのです。粗忽な私が悪いのです。トホホ。
とまあ、こんな落胆の後でしたから、一つでも芽が出てくれたことの喜びはいつもの100倍だったのです。今のところ発芽を確認できたのは、その一つだけ。それも全く予想もしなかったところにひょっこりと。面白いなと思いました。今までに一粒の種の発芽でこんなにも喜んだことがあったでしょうか。何が幸いなんでしょう。逆に言えば、私は普段の幸せをおろそかにしてはいませんか。自問してしまいました。
そして、もう一つ、これも同じ日の午後でした。
少し前から、頭の体操のためにジグソーパズルをしてみようと思っていたので、買いに行きました。1000ピースと500ピース、どちらにしようかと考え、出来上がりが早い方が楽しかろうと、500ピースが2箱でセットになった、ゴッホの絵がプリントされたものを選びました。
図柄はおなじみ「アイリス」と、もう一つは黄色の色彩が印象的な夜の街といった絵がプリントしてありました。恥ずかしながら私はこの黄色の絵については何も知らなかったのです。かといって知りたいと思うほどでもありませんでした。
買い物を終えて家に戻り、しばらくして何となくパソコンでTVジャパンのNHKの番組を開いた時でした。画面は街角散策のような番組でアルルとかゴッホという言葉と共に、あのパズルの黄色のお店が映し出されたではありませんか。パソコン開いて5、6秒です。
そしてその絵が「夜のカフェテラス」という作品であること、その絵の背景をも語ってくれたではありませんか。
このスピード感は何。パズルを手に取った時から、レールの上を滑って今に着地したような感覚です。さらに調べ、「夜のカフェテラス」について遅ればせながら学ばせていただきました。好きな絵画が増えました。
三味線でもつま弾いて「ふたつよいこと、さてないものよ」とやる日はほど遠く、まだ目先でキャッキャやっている私です。
