羅府コラムニスト川口真理さんのエッセー

  9月初めの日曜日は雨でした。目覚めにわずかな雨音が聞こえます。ン? と思ってブラインドを開けると、外は濡れ色に包まれた朝でした。雨足は強くないけれど、家々の屋根もドライブウエーのセメントも、道路のアスファルトも色を濃くしています。草木もおとなしく雨を受けています。青い車がスッと家の前に短く止まって、ドライブウエーに新聞を投げ込んでいきました。まだ早いけど起きるとしましょう。

 まずは新聞を取り込まなくっちゃ。出しっぱなしで濡れてしまったサンダルをひっかけて、傘はなしで裏戸から表へ。雨よけのビニール袋に入った新聞はいつもより厚く―そうか今日は日曜日ですもんね。少し小高くなっている隣のケイ宅のポールに掲げてある星条旗が、濡れ傘をすぼめたように下がっています。

 1日の中で一番いい時間は、夫が起き出す前の、朝のひと時だと、昨今、強く思うのです。なのでがぜん早起きになってしまいました。加齢による早朝覚醒とは訳がちがうのであります。今日は白湯ではなくコーヒーがいいかな。シナモンを一振りするといい香りです。シナモンは血圧を下げてくれるとか。こちらは加齢による血圧対策であります。

 雨粒が大きくなってきたので、そうそう慰んでもいられません。中に戻りましょう。と、その途中、柿の木の根元に、私が新聞紙で作った小袋が落ちているのに気が付きました。それは柿をリスに食べられないようにと柿の実にかぶせておいた袋でした。

 「はあ? 柿に袋ですかあ、梨やリンゴの袋掛けは聞いたことあるけど、そもそも柿って軸が短かいですよねえ」。おっしゃる通りです。私の苦肉の策でした。

 落ちてる袋を見た時は、きっと水分を含んで重くなって外れたのね。適当に留めてたもんね、と思ってました。ところが、そうじゃあないと分かりかけた時の不安。急いで家に入って今度は傘をさして、木に付いてる10個ほどの袋を指で押さえてみました。ある。ない。ない。あった。なんと袋の半分は見事に中身がカラでした。またもやリスの勝ちです。それにしても袋を木に残して私を安心させておくという手法は敵ながら笑わせてくれます。

 この柿の木は、幼木のころからリスの遊び道具にされてまして、かじられ、折られ、それでも自己回復能力を発揮し、何とか持ちこたえ、実を付けるまで成長してくれた木でした。実が付くと実がリスを呼び、ゆっさゆっさと木を揺らし小枝を折ります。そのあげく柿は未熟なままで全滅という始末です。そこで今年は、なんとか柿の実を収穫までこぎ着けようと、リスとの知恵比べに挑んだのでありました。柿の木だってせめて実に種ができるまでは自分の仕事を成就させたいはずです。

 まず、リスは地面から木に登ります。では、私は、爪がツルツル滑って上に登れないよう、厚手のプラスチックを幹のまわりにスカート状に巻きましょう。2、3カ月は木の上でリスを見ることはありませんでした。

 しばらくしたある日、リスは驚異のジャンプ力を見せました。登れないと分かると、ジャンプ力を磨いたらしく、地面からあるいは柿の木近くの塀からムササビがごとく柿の木に飛び移ったのです。

 では、私は、彼らがどこからジャンプしても届かないほどに枝を切り戻ししましょう。また、しばらくしたある日、確かにあったはずの柿の実が片側だけ忽然と消えていました。幹を囲っていたプラスチックには引っ搔いた爪の跡。ジャンプ力が使えないと分かるとプラスチック攻略に出たと見えます。

 では、私は、出身地・鳥取の梨のように果実に袋を掛けて保護してみましょう。柿の形状からして非常にかぶせにくかったのですが、まあものは試しです。結果はご承知の通りでありまして、残った5袋の実がいつまで持つことやら。

 でも案外、この知恵比べ、面白かったんです。不要な忙しさを楽しめました。リスだって生きるために一生懸命なわけです。ともかく食べ物を探して一日をつないでいます。私が「好物だから食べたい」のとは、比較にならないのです。農家さんではない私がのんきなことを言っています。こんな雨の日は、鳥たちも、リスも野ウサギも、みんなどこかでじっとうずくまっているのでしょうね。

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