
Apple TV+で配信中の映画「テトリス」で、主人公の妻アケミに扮(ふん)した長渕文音(あやね)は、約10年前にハリウッドのデビューを夢見てニューヨークの演劇学校に通うも、当時は念願かなわず、日本で経験を積んできた。そんな彼女にハリウッドの夢をつかんだ感想と、父親でシンガーソングライターの長渕剛、母親で元女優の志穂美悦子について聞くと、日本人の女優には珍しく、かなりオープンに答えてくれた。

Q 今回の出演の経緯を教えてください。
文音 オーディションでした。最初にプロフィールの書類審査があって、それに通過したら2次審査で動画のオーディション、それに通過したら3次の相性チェックの読み合わせオーディションを共演のタロン(エジャートン)と監督のジョン(ベアード)とやって、次の次の日くらいに「受かったよ」というメールをいただきました。(ハリウッド作品の)役を得るのに10年かかりました。22歳でハリウッドに進出したいという目標を掲げて、受かったのが32歳でしたからね。これまで、いくつオーディションを受けたか分からないくらい受けました。続ければ夢ってかなうんだなって、今すごく強く感じています。自分を信じてきて良かったなと痛感しています。でも、これは「just beginning」。始まりにしか過ぎないと思っているので、次につなげていかなければって強く思っています。
Q タロンとの共演はいかがでしたか?
文音 タロンとは、「夫婦役だからこういうことをしようよ」とか、「こういうのが大事だよね」というのを特に話すことはなかったです。ただ、私たちが一番大切にしていたのが、「夫婦としてのつながり」でした。リハーサルをやっていて、このシーンではつながりが感じられないって思ったら、すぐに「文音〜! 一緒にせりふをやり取りしよう」って言ってくれて、キッチンの隅で一生懸命せりふをやりました。自分たちのつながりがそのせりふの中で見つかるまで何度も何度もせりふを言って、見つかったなってお互い感じた瞬間にタロンが、「Let’s do this!」と言ってすぐに撮影に入るという方法を取りました。「つながり」というのを常に気にしながら撮影していた気がします。
Q ヘンクは外出しがちで、娘のマヤの発表会にも欠席でした。文音さん自身も、芸能人のお父さんは不在がちで寂しかったのではないでしょうか?
文音 うちの父は不在がちな父ではなかったんです。運動会にも来てましたし、学校の発表会みたいなのにも必ず来るような父親だったので、寂しいなと思ったことはなかったです。逆に「来ないで」って思うことの方が多かったですね。なのでヘンクとは重ならなかったです。でも、私は母親を見て育っていて、私の母親はいろんなことを耐えて、あの父親をサポートしなければいけなかったから、そういうところは今回、アケミを演じる上でキャラクター作りに反映できました。父をサポートする母の気持ちというのは何となく分かっていたような気がします。
Q 最初はバレリーナを目指していたそうですが、中学生の時にケガで夢を断念しなければならないというつらい経験をされましたね。かなり落ち込んだり、荒れたりしたと思いますが、その時の両親からの励ましや、もらった心のギフトはありますか?
文音 おっしゃる通り、当時はかなり荒れました。目標というのがなくなったので…。両親は「勉強しろ」と言ったことはなかったです。 その代わりに、「必ず夢を見つけなさい」という教育を受けました。人生って一つの目標に向かって走っていくことがすごく重要だと思います。それが自分の両親からもらったギフトかなという気がします。とにかく夢を見つけて、目標を設定して、そこに突き進んでいくということが自分の人生を豊かにする一つの方法だと思いますし、そういう教育を受けたというのは素敵なギフトだったなって思います。
Q 夢がかなってハリウッド映画に出演されましたが、実際にハリウッドを経験した感想、今後の目標を教えてください。
文音 デビューというのは、もしかしたらオーディションを受け続けていればいつかできることなのかもしれないのではと思います。これまで多くの日本人がハリウッドデビューを成し遂げていますから…。私は、そこからつなげていくということの方が、これからの挑戦なんじゃないかなと思っています。これが終わりではなく「始まり」で、今後もオーディションを受け続けるし、たくさん落ち続けるのだと思いますけど、つなげていくという意味でもあきらめずにどんどん挑戦していきたいなと思います。完成した映画を見て、「もっとこういう風にすれば良かった」「ああいう風にすれば良かった」といろんなことが出てきました。私は自分の芝居において絶対に満足したことはなくて、常に成長し続けなければいけないと思っているので、今回もいろんな課題が見つかりましたし、ハリウッドで働くときの自分のチューニングと日本で働く時のチューニングは違っていて、いろいろ変えなければいけないんだなとすごく学びました。とにかく学んだことはいっぱいありました。語り尽くせないほどたくさん吸収したし、学ばせてもらえたのでそれを次につなげていけきたいと思っています。(はせがわいずみ、写真=アーサー・モーラ)