40年前にはやったテレビのコマーシャルに、しゃれたキャッチコピーがあった。「フルムーン 忘れぬ あのときめき 旅しませんか 第二のハネムーン」。国鉄(現JR)の熟年夫婦向け特別割引切符の広告で、夫婦の年齢が合わせて88歳以上であれば適用された。
戦後の日本映画を代表する二枚目スター、上原謙(当時73)と、歌う映画スターの草分け的存在の高峰三枝子(54)が夫婦を演じる映像が話題になった。占星術では、フルムーン(満月)は「心の幸福度を最も表している月」だという。
10月、2週間ほど、妻とその「フルムーン」(2人の年齢を合わせたら軽く百何十歳になるが(笑))に出かけた。コロナ禍ということもあって、ここ数年、控えていた訪日だった。武蔵小杉を拠点に東北の会津若松や天童、山寺、さらには金沢まで足を延ばした。バーチャル・トラベル(Virtual travel=疑似旅行)では、すでに訪れていた会津若松の鶴ヶ城(若松城)や会津坂下町周辺の史跡、金沢の加賀藩前田家の居城跡や武家屋敷を六根(目、耳、鼻、舌、身、意=心)で体験したかったからだ。最近、「女武芸者」に関心を持ち始めたこともあって、会津若松では、戊申(ぼしん)戦争で悲劇の最期を遂げた中野竹子(享年20歳前後)が眠る曹洞宗法界寺にお参りした。
竹子が隊長となった「娘子隊」は16歳から44歳までの武家の婦女子20人余で編成されていた。彼女たちは鶴ヶ城に迫りくる新政府軍と勇猛果敢に戦った。竹子は、銃弾を額に受けて倒れ、息も絶え絶えの中で戦友に「敵に首級を渡してはなりませぬ」と介錯(かいしゃく)を頼んだ。まさに「女武芸者」だった。大切なものを守るために戦った女性たちが男尊女卑の時代に誇り高く生き、散っていった。
今回の訪日は、親類縁者や友人知人とだべったり、温泉に漬かるだけでなく、先人たちの足跡に思いをはせる「エシカル・トラベル」(Ethical travel=知徳旅行)にしたかった。今若者の間ではやっている、訪れた土地や人、歴史や文化への敬意を表す旅だった。
それと「フルムーン」とはどう結びつくのか、ですって? 結びつきますよ。人生は旅。「フルムーン」って、人生を旅する中で喜怒哀楽を分かち合ってきたパートナーに対する敬意を示す絶好のチャンスと違いますか。ちょっと牽強付会(こじつけ)かもしれませんが(笑)。(高濱 賛)
